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コミティアお疲れさまでした。

コミティア、無事に終わりました!
 参加された皆様、お疲れさまです。

「次のコミティアは10月開催」と理解していながら、なんとなくまだ余裕があるような気がして呑気にしていたぶん(新刊出す予定がなかったせいもありますが)、結局ギリギリに大慌てするいつものパターンに陥りましたが、なんとか乗り切ることができました!

今回は掘り出し物をゲットしたり、お手伝いに来てくれた雉猫さんと毒草園ネタで盛りあがったり、さらにはお隣りさんとお話しできたりと、楽しい一日を過ごすことができました。
お立ち寄りいただいた方々、ありがとうございます!

夏の新刊「花炎を摘む花」にも投票していただき、ありがとうございます。
「被害者側」という言い回しがツボでした。
これからも楽しんでいただける話が書けるよう、頑張ります。

あとイベントとは関係ないのですが、拍手してくださってありがとうございます。
どうもお礼をいうタイミングを逃してしまって、失礼してしまったかもしれません。
押していただけるたびに小躍りしています。

さて。
次は文学フリマですよ!
準備期間があと二日しかありません。

せめてポスターぐらいは新しいものをと思いつつ、雉猫さんとの話に出てきた小ネタを膨らませて掌編というか、セルフパロを書きました。
<続き>の方に載せておきます。

ただいくつか注意点が。
1.ノリと勢いだけで書きあげました。推敲してません。なので誤字・脱字・誤用があるかもしれませんが、気にしない方向でお願いします。ついでに文のくどさにも目を瞑ってください。
2.オチはありません。
3.毒草園シリーズをご存じない方には意味不明な内容です。

それでもいいよ!と思われる方のみご覧ください。

次回の更新は文フリ後になると思います。では!
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 闇のむこうから吹き付けてきた木枯らしに包まれて、神庭旭春は我知らず体をすくめた。
 今年も残りはあと二ヶ月。昼はまだ小春日和の温かさがあるものの、日が落ちると同時に季節が進む。
 背筋を走りぬけた悪寒に、旭春は堪えきれずにくしゃみをもらした。
 最寄駅からアパートまでは徒歩で二十分ほどの距離である。それだけ歩けば真冬であっても、いつの間にか体が温まってくるものだ。だがあとひとつ角を曲がればアパートにたどり着くところに差し掛かっても、体は冷え切ったままだった。
 否。悪寒は消えることなく旭春の背に張りついたまま、容赦なく体温を奪ってゆく。
 ふたたびくしゃみをもらした旭春は、喉の奥に違和感があることに気がついた。
 職場の人間と夕食を取っているときから、たまに咳が出ていたものの、タバコの煙のせいだとばかり思って大して気にもとめていなかった。だが考えてみれば、その前からやけに体がだるくもあったのだ。
 どうやら風邪でも引いたらしい。
 そう察して、旭春は首をすぼめた。
 この十日ほどは急遽スケジュールが早まった別部署の仕事に借り出されて、深夜に帰宅することも多かった。疲れをためてしまったのは旭春だけではないらしく、数日前からは職場のあちこちで咳き込む声が聞こえていただろうか。
 そんなことを考えながら、旭春はアパートへと急いだ。
 仕事の納期は明日。実験データはようやく揃ったものの、あと一日で報告書を作りあげなくてはならないのだ。旭春などまだ下っ端だから、たいした仕事を任されるわけもない。しかし明日だけは休むわけにはいかないだろう。
 ……薬を飲んで一晩寝れば、ある程度は回復するはずだ。
 そう考えて、旭春は風邪薬を切らしていることを思い出した。
 旭春が住んでいる街はまだ畑が点在するような場所で、最寄りのコンビニエンス・ストアすら歩いて十分はかかる。あと少しでアパートにたどり着くこの場所から、駅まで戻るのも億劫だった。
 さて、どうするか。
 結論を出せないままに、暗い四つ角を曲がる。
 普段であれば、旭春の視線は佐伯毒草園の木塀に流れていただろう。昼間ですら滅多に人とすれ違わないような道である。しかし毒草園の腕木門の前には、黒塗りの高級車が止まっていたのだ。
 イヤな予感を覚えながら、旭春は車の脇を通り抜ける。抜けようとした。
 車の後部座席のドアが音もなく開かれたのは、その瞬間。
「ずいぶんと疲れた顔をしているじゃないか」
 大仰に驚いてみせながら車を降りてきたのは伯爵だった。
「ちょっと体調を崩してしまったみたいなんですが……そんなに顔に出ていますか?」
 まさか自分が帰ってくるのを待ち構えていたわけではないだろう。そう思いつつも旭春は我知らず後ずさってしまう。
 伯爵と七生の会話を間近で聞いたことは何度もある。だが義理の親子だというふたりの会話は楽しげな口調を崩さないまでも内容は辛辣で、聞くに堪えないこともしばしばなのだ。そして長い。
 一分一秒でも長く睡眠と取りたいいまは、決して会いたくない相手だった。
 ひきつった笑みを返しながらじりじりと距離を開いて、逃げる体勢を整える。
 だが、そう。七生同様伯爵は、旭春の言い訳などにだまされる人間ではないのだ。
「それはいけないな。だが、旭春。君はどこへ行くつもりなんだ? まさか優秀な薬種商が隣家に住んでいることを知っていて、その家を素通りするつもりではないだろうね」
 怪訝そうに顎をさすりながらも、その顔に浮かんでいるのは楽しげな笑み。蜘蛛の巣に絡め取られた己の姿を想像しながら、旭春は顔を引きつらせた。

「あなたが風邪、ですか……?」
 毒草園の庭に面した離れの客間。ソファに腰を下ろした佐伯七生は、さも怪訝そうに首をかしげた。辛辣な言葉を吐くときでも人の良さそうな表情を崩さないというのに、いまばかりは眉をひそめて、表情を曇らせている。
「おかしいですね。その病気は、あなたには無縁のはずですが」
 まじめくさった態度を崩さないまま、独り言のようにそうつぶやく。
「そんなふうに決めつけたら、神庭さんが可哀相じゃないか」
 反論してくれたのは七生の弟子である蓮だ。
「神庭さんだって風邪ぐらいひくさ。季節はずれの夏風邪でもこじらせたんじゃないの?」
 馬鹿は風邪を引かない。
 夏風邪は馬鹿が引く。
 そんな言葉を投げつけられるのは覚悟していた。しかし突き立てられた棘の痛みは耐えがたく、旭春は無言のまま肩を落としてしまう。吐息とともに視線を足下にむけると、テーブルの下から琥珀の双眼が旭春を見上げている。唯一の味方を見いだして、旭春は琥珀を抱きあげた。
「夏風邪だというのなら、納得もできますが。しかし困りましたねえ。あいにく私は、馬鹿に効く薬なぞ調合したことがないのですよ」
「……わざわざ調合してもらうつもりはありません。市販の風邪薬を少しわけてもらいたかっただけなんですが」
 やはり億劫がらずに駅前に戻って、ドラッグストアを目指すべきだったのだ。
 胸の痛みに顔を歪めながらも、旭春は反論を試みる。
「おや、旭春。君もいつの間にか肝が据わってきたようだ。薬と名付けられたものなら何でも商うことを信条としている男に、市販の薬を要求するとはね」
 その言葉は、七生に喧嘩を売っているようなものだ。
 そう指摘されて、旭春は息を飲む。血が引く音を鼓膜に響かせながら、おびえるように七生をみやる。
「そんな安っぽい挑発を買うほど暇ではありません」
 大げさな吐息とともに、七生はそう吐き捨てた。旭春をみやる視線は、しかしひどく冷たい。
「体調が悪いのならこんなところで時間を潰していないで、さっさと部屋に帰るべきです。まさか誰かにうつして治そうと考えているわけでもないでしょう」
「なんだい、佐伯。薬種商のくせに、旭春に薬をわけてやらないつもりかい?」
「与えるべき薬がないのですから、仕方ないでしょう」
 帰れという七生の言葉は、旭春にとっては願ってもないものだった。しかし伯爵は、旭春が腰をあげる隙を奪ってしまう。
「まったくケチな男だな。ならば仕方がない、この私の秘薬をわけてやろうじゃないか」
 そんな言葉とともに、伯爵はどこからともなく小さな木箱を取り出して見せた。
 手品のように唐突に、伯爵の手の上に現れたモノ。一辺が3センチにも満たない小さな箱には、しかし精密な文様が彫りこまれている。
 その箱を目にとめて、旭春は我知らず息を飲んだ。
 はじめて見る箱ではない。それは賢者の石を納めた箱であるのだ。
「遠慮することはない。いつかは君に与えようと思っていたからね。ひと粒飲めばそんな風邪など、たちどころに治ってしまうだろう」
 手のひらを目前に突きつけられても、旭春は箱に手を伸ばすことはできなかった。
 賢者の石は錬金術師が作り上げた万能薬。
 それは病を治すだけでなく、人を老いや死から解放させる不老不死の薬でもあるはずだ。
「……俺は、ふつうの風邪薬が欲しかっただけなんですが」
 そのために不死の体を手に入れたいとは思わない。
「まったくワガママな人ですね」
 伯爵の提案をどうすれば上手く断れるか。そんなことを考えている旭春の耳に、冷ややかな七生の声が響いてきた。
「薬を求めて連絡もなく押しかけて来ながら、万人が求める賢者の石を拒否するとは。数十年後に後悔することになっても知りませんよ」
「そのとおり。旭春、君もいいかげんに腹をくくったらどうなんだい?」
「……遠慮します」
 不老不死を誇る人間はみな我が強く、個性的な人間ばかり。万が一、体が死から解放されても、自分の精神が持つはずはないと旭春は思う。
「仕方がありませんねぇ。それなら琥珀の血でも飲んでみますか」
 ため息まじりに告げられた七生の言葉が理解できず、旭春は無言のまま視線を落とした。毒草園の飼い猫である琥珀は旭春の膝に乗り、さも心地よさげに目を閉ざしている。子猫のような華奢な体つきをした白猫は、大人しくしていればヌイグルミのように愛らしい。だがその正体は毒草を食べて育った有毒体質の猫である。しかも性格は凶暴で、少しでも気に入らないことがあると旭春にも平然と牙を剥いてくるのだ。
「毒をもって毒を制す。という言葉もありますからね。琥珀の血に含まれる毒ならば、風邪の菌などたちどころに死滅するでしょうし」
 すでに何度となく琥珀に引っかかれ、噛みつかれている旭春である。琥珀の血に含まれる毒は強いが、多少の耐性はついているはずだと七生は続ける。
 琥珀の毒に数日苦しんでいるうちに、風邪などどこかに消えてしまう。
 自慢の商品を売り込む営業職の笑顔を浮かべて、七生はそう説明してくれた。
 しかしさすがにそれは真実ではないだろう。
 結局のところ、七生も伯爵と一緒になって旭春をからかっているだけなのだ。
 そう、いつものように、だ。
 こうしているあいだにも体をさいなむ悪寒は強まるばかり。
 薬をわけてもらおうなどと虫の良いことを、わずかにでも考えた自分が愚かだったのだろう。
 そんな結論を出しつつも、旭春は力なく肩を落とした。

 翌日。
 電車遅延に巻きこまれた旭春が会社にたどり着いたのは、始業時間を三十分ほどすぎてからのことだった。
 息を切らせながら職務フロアに駆けこむが、室内はやけに閑散としている。そんななかで、義匡が黙々とパソコンにむかっている。怪訝に思いながらも、旭春は義匡の席へと近づいた。
「遅れてすみません。ちょっと寝過ごしてしまって」
 目が覚めたのは、いつもより三十分ほど遅い時間だった。しかし電車が遅れていなければ、始業時間には十分間にあう時間だった。
 寝ている間に熱でも出たのか、体は寝汗に濡れていたが、寝る前に感じていた悪寒はなく、嘘のように体が軽かった。薬も飲まずに回復したのだから、思っていたより軽い風邪だったのだろう。
 ……ただ、もし効いたとするなら。
 遅々として進まない電車のなかで、旭春はそんなことを考えた。
 昨夜、七生に毒草園を追い出される前に飲んだ茶。シナモンに似たにおいを放つ赤みを帯びた茶は、不老不死の薬草茶だと説明を受けたことがあっただろうか。しかし効能ではなく、渋みの強い茶の味を旭春が気に入っていると知っている毒草園の住人は、旭春が毒草園を訪れるたびにその茶を振る舞ってくれるのだ。
 だが昨晩にかぎって、その味がいつも以上に濃かった。
 もしかしたらその茶が、風邪を治してくれたのかもしれない。
 そんな思いつきに、幾度となく口元が緩みそうになったものだ。
「他の人たちは? 今日は朝から資料作成に取りかかるはずですよね?」
 データは揃っているから、いまさら実験棟に出向く必要はないはずだ。本来中心となって仕事を進めるべき部署の人間たちは、いまどこで作業をしているというのか。
「よく来たと褒めてやる。おまえでも、猫よりは役に立つからな」
 毒づきながらも義匡が指で示したのは壁に設置したホワイトボード。職員のスケジュールが書かれるはずのそこには、しかし「全休」の文字が並んでいる。
「インフルエンザだとさ」
 昨夜、仕事帰りに食事をともにした人間たちだ。たしかに旭春のように咳をしている者もいた。徐々に赤ら顔の人間が増えていくのは、酔いが回ったのだとしか思わなかった。
 ……まさかあれは酒ではなく、熱のせいだったのか?
 状況が理解できないまま、旭春は呆然とホワイトボードをみつめてしまう。
「部長の娘が二、三日前から熱を出していると言っていただろう。そのせいさ。……まったく、自分の部署の仕事を俺たちに押しつけておいて、熱が高くて動けないときた」
 そう。昨日、一番咳をしていたのは部長だった。しかし連日、他部署の旭春や義匡にまで残業させることを心苦しく思っていたのか、疲労困憊で帰ろうとした自分たちを強引に引き留めて、酒の席に誘ったのは部長その人。ざっとフロアを見渡したかぎり、その飲み会に出席して、今日仕事に出てきているのは自分と義匡のみであるらしい。
「ちょっと待ってください。あの仕事は、今日中に報告書をまとめて提出しなくちゃいけないんでしょう? 本来の担当者が全員休んでしまったら、だれがそれを引き継ぐんです」
「もちろん俺とおまえに決まっている」
 平然と告げてみせるが、義匡の目には怒りがある。
「正直者が馬鹿を見るっていうけどな。この場合は、健常者が馬鹿を見ると言うべきだろう。……さすがに俺も、インフルエンザにかかった方がマシだと思ったさ」
 風邪をひいて休んだら職場に迷惑がかかると思い、棘のある言葉を投げつけられることを覚悟して毒草園へと足を踏み入れた。
 一晩で体調が回復した理由は分からない。だがたしかに今回ばかりは、自分の健康を恨むべきなのだろう。
「いつまで惚けている。状況が分かったのならさっさと手を動かせ」
 仕事を押しつけられた義匡は相当に機嫌が悪いらしい。
 そう、自分のまわりには、なぜか口の悪い人間が揃っているのだ。
 自分に課せられるだろう仕事の量と、義匡に突きつけられるだろう厭味の数々を想像して、旭春は昨晩から数えて何度目かも分からない吐息に肩を落とした。
 
<おしまい>
椎名貴乃 * 雑記 * 20:43 * comments(2) * -

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コメント

どもども雉猫です。
冗談で思いついたことが、ショートストーリーくらいになってますね。さすがだ。
風邪は治ったものの結局びんぼーくじ引いてますね。旭春くんは(くす)。
Comment by 雉猫7号 @ 2011/11/01 11:01 PM
コミティア&アフターではお世話になりました。
お別れして電車に乗ってから妄想が広がって、気がついたらけっこうな分量になってましたね。これも雉猫さんのおかげです。
貧乏くじを引くからこそ旭春なんだと思ってます!
Comment by 椎名 @ 2011/11/02 12:09 AM
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